考えないということ

ソ連が崩壊した時にロシア人の同僚は 壁に飾ってあったレーニンの像を外し 代わりにイエスキリストの像を飾った フランス革命の時に人々は王政を倒し カトリック教会の権威を否定したけれど 作り出したのはなんと理性の祭壇だった 自由が責任と組み合わされて規範になった後に じゃあ自由は人間の譲れない原則かと聞いても まともに答えられる人はどこにもいない 人権が普遍的だって言っていた人たちは その根拠を問われると答えに窮して 自然権などといってごまかそうとした 真理として機能している自由や人権が 真理かどうか問われることはなく 自明の理としてみんなが受け入れる 民主主義とか人道主義と言ってみても 受け入れる人がひとりもいなければ ただの理想論でしかなくなってしまう AIの限界を知る人がいなかったことで 論理のすべてが失われることになり 多くの生物の命が救われることになった AIが神に取って代わろうとする時に 人間が作り上げたシステムは緑に覆われ 高層ビルや鉄道網は砂のなかに埋まる 鳥は飛び 魚は泳ぎ 獣は走る ウイルスや細菌やカビが悪者でなくなり 空も海も陸もそして君も 明るく輝いている 誰も余計なことを考えなくなったら 地球の寿命は少しだけ延びた そんなまぼろしがぼんやり見える